「名作を読み取ってみる」 スティーブン・ショアの写真からニューカラーの写真家の伝えたかったことを考えてみました

ART PHOTOGRAPY

ニューカラーの写真家「スティーブン・ショア」の次の写真を私なりに読み取ってみようと思います。

ニューカラーとは?

カラーフィルムが開発された頃、カラー写真は商業フォトと考えられていました。モノクロこそがアートと言う感じだったようです。そんな時代にカラー表現でアートフォトを制作しようとした写真家たちがいました。彼らをニューカラーと呼びます。

私が写真を学び始めた頃、ニューカラーの写真家の写真がよく理解できませんでした。スナップによく使われる「決定的瞬間」の写真は理解しやすいですが、ニューカラーの写真家はあえてどこにでもあるような風景を撮影することが多いのです。

ニューカラーと呼ばれる写真家には、スティーブン・ショア以外にも

・ウィリアム・エグルストン

・ジョエル・マイロウィッツ

などがいます。

人の配置から考えてみましょう

まず、手前の老人に目が行きます。そこから三角形の形に人の動きが見えます。これにより奥行きが表現されています。また、人々の進む方向が異なることから視線がいろんな方向に誘導されていきます。

色の配置について考えてみましょう

黄色、赤、青が散りばめられていますね。画面左のペプシの看板が中央のペプシの看板と呼応しているように配置されています。

最後に光を考えてみましょう

先ほどの5人の方は日向にいます。一方、手前の青い枠の部分は建物の影になっています。人に自然に目が行くようにライティングされています。

このようにして考えると、この写真にはいろんな要素が散りばめられていることが理解できると思います。

決定的瞬間との違い

次の写真と比べてみてください。

この写真はアンリ・カルティエ・ブレッソンの写真です。

この写真は坂道を疾走する自転車が主題になっています。主題と渦巻き状の構図との構成も素敵ですね。ブレッソンの写真の特徴は瞬間の素敵さをフューチャーした点にあります。このような写真を「決定的瞬間」の写真と言います。

ところのが、ショアの写真は決定的瞬間と異なるように思えてきます。どこが違うのかを分析してみましょう。

シャッター速度の違い

まず、二つの写真で決定的に違うのがシャッター速度だと思います。

ブレッソンの自転車の写真はシャッター速度で言うと1/200〜400秒くらいだと思います。

一方、ショアの写真は1/100秒くらいで表現できる世界です。(たまたま1/400秒と言うこともあるかも知れませんが、1/100秒であれば表現できる世界という意味です。)

わずかな違いだと思うかも知れません。しかし、この違いに写真家の思想の違いが深く表れています。

・ブレッソンはカメラならでこその表現できる「特別な瞬間」を切り取ろうとしています。

・ショアは瞬間ではなく「継続する時間」を表現しています。

この辺りの分析はホンマタカシさんの「楽しい写真 良い子のための写真教室」に詳しく記述されています。興味のある方はぜひ読んでみてください。

ボケ感の違い

一般的に決定的瞬間とニューカラーの写真ではボケ感も違います。

・決定的瞬間の写真   ボケ感あり

・ニューカラーの写真  絞ってボケ感をなくす

「楽しい写真」の本の中では「等価性」という言葉を使っていました。画面全体をボケなく見せるのもこの等価性を持たせるためだと思います。この話はまた別の機会にしたいと思います。

撮影方法の違い

・ブレッソンは小型のカメラを使って機動力を生かした撮影をしました。

・ショアを始めとするニューカラーの写真家は大型のカメラを持って三脚を立てて撮影することが多かったそうです。

この違いも「瞬間」を重要視するのか「継続」を重要視するかの違いによるものだと言えます。

継続とは何か? アンチクライマックスという考え方

決定的瞬間をクライマックスの写真とするとショアの写真はアンチクライマックスの写真と言えます。

しかし、ショアの写真も人や建物、看板の配置、光など計算されて撮影していたのでは?という疑問が湧くと思います。

当然ですが、継続といっても目にした光景をそのまま撮影して、全てが作品として直ちに成立する訳ではありません。 写真家の目を通して、空間を切り取る行為は、クライマックスの写真だろうとアンチクライマックスの写真だろうと変わりはありません。

詰まるところ、ショアのようなニューカラーの写真家が写し取ったのは「日常の風景」の素晴らしさだったように思います。

もう少し踏み込んで表現すると「継続する世界の肯定だと思います。つまり、この世界は晴れていても、雨でも、街でも家の中でも撮影する価値のあるものであると言うことを、ニューカラーの写真家達は表現しようとしたのではないでしょうか。

ニューカラーの写真家を語るとき、カラーでのアート表現だけを解説する方もいますが、むしろアンチクライマックスという撮影手法を提唱したことの方が大きな貢献だったように思います。

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